フォッサマグナ西端を行く
先週の旅はフォッサマグナの西の端を、南側(太平洋側)三分の二くらいの部分を往復するものだった。
糸魚川静岡構造線に沿って移動したわけではないので、フォッサマグナの本当の西の端というわけではない。
ウチの近所の箱根愛鷹の火山群を後に、中部横断自動車道(E52)を富士川沿いに北上する。
富士川は下流域が極端に短く、遡ると山間で上流の様相になり、甲府盆地では中流の様相になるという妙な川である。
中部横断自動車道からは、東側(右)の天子山塊の稜線の上に、ときおり富士山が見える。
いま見えている富士山は、2万年前に噴火を開始した比較的若い山である。
1200年前の貞観噴火では青木ヶ原溶岩原が形成されたし、300年前の宝永噴火では大きな火口ができて、関東に火山灰が降り注いだ。
中部横断自動車道が中央道に接続する双葉JCTに近づくと、西(左)に南アルプスの山々、北に八ヶ岳が見える。
南アルプスはまさにフォッサマグナの西端で、逆断層の隆起した側である。
隆起した高さは2000メートルを超えるが、断層そのものはさらに下に6000メートルくらい続いているらしい。
逆断層の隆起しなかった側は、甲府盆地や関東平野含み、日本海から太平洋に至る広大な地溝帯になっている。
八ヶ岳はその地溝帯の中に出現した火山だ。
山頂部が噴火の際に吹き飛んでいるため標高は3000メートルに満たないが、もし吹き飛ばなければ富士山よりも高かったと考えられる、巨大な火山である。
中央道から降りて八ヶ岳の東側の山麓を北上する。
右側(東側)の山並みは、奥秩父山地へと続く。
奥秩父山地は火山ではない。
フィリピン海プレートに載っていた海底堆積物が、地溝帯の上に押し上げられて隆起した「付加体」である。
海底火山に由来する花崗岩だったり、砂岩や泥岩だったり、サンゴ礁由来の石灰岩だったり、変成岩だったり、さまざまな地質のごちゃ混ぜの山々である。
実際に山を歩いてみると、ごちゃ混ぜの地質であることを実感できる。
北八ヶ岳の登り口(麦草峠へ至る道)のあたりから、中部横断自動車道(E52)の無料区間に入る。
右側(東)に妙義荒船山系の特異な稜線が見える。
これらの山々は巨大なカルデラの火口部分らしいが、詳しく調べていないのでわからない。
というか、そのうち登ってやろうと思っているうちに40年経ってしまい、いつ登ることができることやら。
やがて前方(北)に浅間山が見える。
言うまでもなく、活発に活動中の活火山であり、山頂付近は現在も立入禁止である。
こうしてみると、巨大な地殻変動の結果生じた地形を実感する旅でもあった。
プレート運動は不断に続き、それに伴って断層や土地の隆起が生じる(断層のズレは2000メートルを超える……)。
海洋プレートの上の海底堆積物は、陸のプレートの上に押し上げられて付加体となる(盛り上がった高さは2000メートルを超える……)。
地下に潜り込んで融けたプレートがマグマとなり、地上に噴出して火山となる(積み上がる噴出物の高さは2000メートルを超える……)。
このような地殻変動に思い至ると、大規模な建設物は大丈夫なのかと心配になる。
長いトンネルを通っているとき、高い橋梁を通っているとき、いま大地震があったら命がないかもなぁ、などと思う。
それにしても、フォッサマグナ西端の大断層を突っ切るトンネルを掘って、そこに時速500キロの列車を通そうなんていうのは、ちょっと正気の沙汰ではないような気がするなぁ。