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2020/01/04

『時間は存在しない』を読んだ

年末年始の休みにカルロ・ロヴェッリ著『時間は存在しない』(NHK出版)を読んだ。
冬至の約10日後に新年となるシステムが疑問なので、とくに正月がめでたいとは思わないのだが、仕事が休みなのでのんびり過ごしている。
そこで時間について考えながら、散歩と昼寝の合間に読んだ。

この本の本文中に記された数式は一つだけ(エントロピーは増大する、ということを表す式)。

ΔS≧0

そのほかは、アリストテレスから始まる諸賢の時間に関する考察と、著者の詩的な文章から構成されている。
物理学の本というより、哲学の本のようである。
一部、著者の専門であるループ量子重力理論などの理論物理学への言及があるが、そこは読み飛ばしても差し支えない(巻末の注釈のテンソル式など、ワシにはサッパリわからん)。
以下、この本についてというより、読んで考えたことを記す。

今日は過ぎ、昨日は戻らず、人は去り、エントロピーは増大する。

現代の物理学では、時間は存在しないのだという(無時間仮説)。
過去も未来も存在せず、10の44乗分の1秒というプランク時間だけ持続する現在だけしかない。
時間の経過は重力場などの周囲の状態によって変わるから、「現在」にある範囲は(最小では)10の35乗分の1メートルのプランク長の量子である。
プランク時間ごとの量子の位置や速度の変化(というか量子間の相互作用)が、時間と空間を織り上げている。
この宇宙は、ピクセル画のアニメーションみたいなものなのだ。

ではなぜ、時間は過去から未来へと流れるのか。

フッサールによる「時間の構成」を図解して示すと、次のようになる(181ページ図34を改変)。
この宇宙のこの領域では、たまたま初期状態のエントロピーが小さかったため、エントロピーが増大する向きに時間が経過する。
図のKが現在を表し、時間の経過とともに右へ移動していく。
イベント(出来事)Aが起こり、K(現在)の「私」が記憶する(A' で示す)。
しばらくしてイベントBが起こり、記憶される(B')。

Sketch1578126359944

過去は記憶の中だけにあり、実在しない。
イベントAやBはすでになく、記憶の中だけにあるのだ。

記憶と言っても人間のそれだけではない。
化石の陰刻や結晶の中の磁場の向きなど、無生物にも過去が記憶されている。

人間は記憶を他者に伝えることができ、互いの記憶を確認しあうことができるので、さも過去が実在するかのように感じてしまうのだろうか。
実際には、個人の記憶はニューロンの発火に過ぎず、ニューロンが発火をやめれば消えてしまう。
死ねばその個人にとっての過去は消滅するのだ。
そこで一つの詩を思い出す。

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です

(宮沢賢治『春と修羅』序より)

過去は思い出であり、未来は確率存在に過ぎない。
だから、取り返せない過去を悔やむのは無駄であり、未来を知ろうと占い悩むのもまた無駄である。
過去を想いながら現在を生き、未来をより良いものにできるように過ごせばよいと思うのだ。

生命や文明にとって必要なのは「高エネルギーではなく低エントロピーである」とか、そういう面白い話もあったが、長くなるので改めて書こう。

無時間仮説は、恒星間の通信とかタイムマシンを作ることができるかとか、いろいろSFにからむ話題に発展できるのだけれど、本書と直接関係ないので、また別の機会に(スターウォーズあたりとからめて)書くつもりだ。

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