『コロナ漂流録』を読んだ
海堂尊著『コロナ漂流録 2022銃弾の行方』を読んだ。
『コロナ黙示録』『コロナ狂騒録』に続くコロナ三部作の完結編である。
完結編といっても、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックは終息せず(2024年7月現在、第11波が到達している)、否応なく「ウィズコロナ」状態になっているので、本当に完結編となるかどうかは、著者次第だが。
本作では、表題の通り2022年7月の首相暗殺から始まり、2023年1月の諦めに似た主人公の独白で終わる。
機能性表示食品ならぬ「効果性表示食品」、統一教会ならぬ「奉一教会」、大阪万博ならぬ「浪速万博」など、現実の諸問題を名前を言い換えて記録している。
機能性表示食品については、その後、現実世界において小林製薬のサプリによる健康被害が発生して問題となり、注目を集める事態となった。
機能性表示食品のようないい加減な規制緩和の体質的な問題点を、小説のほうが先に示していたわけだ。
前作『コロナ狂騒録』で「バカ五ヵ条」を開陳した厚労省のはみ出し技官の白鳥は、本作では「創薬詐欺師を見抜く鉄則五ヵ条」を披露する(文庫版246ページ)。
第1条:追従者がいない技術をフカせ
「世界で自分たちだけが特殊技術で成功した」というのは、じつは世界が見放した「成功の可能性のほとんどない技術」だったりする。第2条:事後解析で有効性を主張せよ
データの改竄や都合の良いデータだけを取り上げて有効性を主張する。第3条:結果公表を先延ばしせよ
臨床試験結果の公表を遅らせ、補助金を受け取ってから開発を中止にする。第4条:メディア花火を打ち上げろ
政治家やメディアとつるんで、補助金をゲットし、株価を上げて資金を集める。第5条:海外治験は欧米以外でやれ
もともと本気で開発する気がないので、委託先の国を公表せずに誤魔化す。
ということで、「創薬詐欺師を見抜く鉄則五ヵ条」と言いながら、「いかにして創薬詐欺師になるか」みたいな鉄則になってしまっていたりする。
こういう創作部分は、いつものバチスタ・シリーズ(桜宮サーガ)のテイストで安心感すら覚えるのだが、この登場人物達なら、やはりポリティカル・フィクションではなくミステリが読みたい気がする。
ちなみに、文庫版の解説は、統一教会を追い続けているジャーナリストの万田ナイト、じゃなくて鈴木エイトが書いている。
万田ナイトは「奉一教会」を追い続けているジャーナリストだった(文庫版157ページ)。
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