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2023/08/29

トリチウムへの長い道(1)

福島第一原発事故汚染水の海洋放出が、関係者の同意がないままに始まった。農水大臣が想定していなかったという中国の反発などもあり、なんか騒がしい。毎日のように新聞やニュースフィードで「トリチウム」という文字を見る。

「処理水に含まれるトリチウムは許容量以下だから科学的に安全だ」とする推進派と「トリチウムの生物体への影響は科学的に解明されていないので安全とは言い切れない」とする反対派が互いを非科学的と罵り合うような状況になっているが、さて、このように主張する人々は、実際のところトリチウムについてどの程度理解しているのだろうか。

ちなみに儂は、核燃料デブリに触れた地下水からトリチウム以外の放射性物質を完全に除去できているか疑問なので、「処理してもなお汚染水」を海洋放出することには反対である。もちろん、トリチウムの生物体や生態系への影響についての懸念もある。

儂はトリチウムなどの放射性物質の専門家ではない。大学で少しだけ放射線生物学を学んだし(優をもらった)、中学と高校の理科の教員免許を持っているので、基礎知識はある。小中高の理科教材を作ってきた経験を活かして、専門家の視点とは違う、わかりやすい説明を試みたいと思う。


身の回りの物質はすべて、100種類ちょっとの元素からできている。水素、炭素、窒素、酸素、ヨウ素、セシウム、アルミニウム、鉄、ウラン……といった名前の元素があることは、皆さんご存知の通り。これらの元素は、理科の教科書の見返しなどに「元素の周期表」として一覧表示されている。

Periodic

この元素の一覧の中に、トリチウムはない。トリチウムは元素の名前ではないのだ。では何か?というと、トリチウムは水素の一種なのである。トリチウムは水素の中では少数派で、自然界にはごくわずかしか存在しない。では何でそこいらにある水素と区別してトリチウムと呼んでいるのかというと、その名前自体にヒントがある。

トリチウム(tritium)のトリ(tri-)はラテン語で「3」を意味する接頭辞である。トリオ(三重奏)、トリニティ(三位一体)、トリエンナーレ(三年に一度開催される美術展)など、日常的に目にし、耳にする。

ではトリチウムの何が「3」なのかというと、ありきたりの水素の三倍の重さなのである。トリチウムは日本語では「三重水素」という。

何で重さが三倍になるのか?について説明するには、水素の原子核と原子核を構成する素粒子についておさらいする必要がある。

身の回りの物体を、その性質を保ったまま細かく分割していくと、たいていの場合、分子か原子になる。たとえば、バケツ1杯の水を二つに分ける作業を続けて行くと(その回数はたぶん恒河沙という途方もなく大きな数になるけれども)、1個の水分子になる。

水分子は2個の水素原子と1個の酸素原子に分解できるが、原子まで分解すると性質が変わり、水ではなくなってしまう。水素と酸素になってしまうのだ。水のような化合物の最小単位が分子で、物質としての最小単位は原子である、と思っておけば良い。

Water_mol

ついでに言えば、元素というのは原子の種類のことで、それぞれ特有の性質を持っている。水素はすべての元素の中で一番軽く、酸素はほかの元素と化合物を作りやすいという性質を持っている。

多くの人は、原子というと小さな小さな球体のようなイメージを持っているだろう。上の図にもそんな感じで描いた。教科書などでもそのような模式図で示すことがある。

だが原子は丸くて硬い玉ではない。……ということで次回に続く。

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