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2023/08/31

トリチウムへの長い道(3)

昨晩から今朝にかけてスーパーブルームーンだったが、ウチのあたりは曇っていて、でっかい月の出は見られなかった。寝る前に雨戸を閉めながら見上げると、薄雲がかかり、中天に掛かる普通の満月という風情で、少々残念だった。

雲の上はいつも星空、月も土星も明るく輝いているのにねぇ。……ということで前回の続き。


自然界におけるトリチウムの生まれ故郷は、はるかな空の上である。地球には、超新星爆発などに由来する大量の放射線が降り注いでいる。宇宙からやってくる放射線を宇宙線という。地球上の生物を大量に降り注ぐ宇宙線から守っているのは、厚さ100キロメートルほどの大気だ。

NASAの宇宙気候観測衛星が160万kmの距離から撮影した月と地球の写真を見ると、いろいろなことがわかる。<br /><br><br>
見えているのは月の裏側である。<br /><br><br>
見慣れた「海」や線条がない。<br /><br><br>
月の表側(ニアサイド)と裏側(ファーサイド)では、その表情がだいぶ違う。<br /><br><br>
地球のほぼ全面に太陽の光が当たっているので、満地球である。<br /><br><br>
そこで当然、観測衛星から見た月も満月のはずだが、妙に黒っぽい。<br /><br><br>
裏側だから黒っぽいのか?というと、そういうわけではない。<br /><br><br>
じつは月の表側・裏側を問わず、月面はこの写真のように黒っぽいのだそうだ。<br /><br><br>
地球から見た満月が明るく輝いているのは、背景(つまり宇宙)が黒いからだ。<br /><br><br>
漆黒の宇宙に比べれば、月ははるかに「白い」のである。<br /><br><br>
しかし、白い雲をまとう地球に比べれば、月は「黒っぽい」のである。<br /><br><br>
そりゃあまぁ、雲と熔岩を比べたら、熔岩のほうが黒いよね。
(NASAの宇宙気候観測衛星が160万kmの距離から撮影した月と地球の写真:月には大気がないので、月面基地を作るなら宇宙線を防ぐ仕組みが必要となる。写真の月が黒っぽく見える理由については、過去の記事を参照のこと)

大気中の酸素や窒素が宇宙線を止めて、地上に降り注ぐ量を百分の一位以下にしているのである。たとえば、宇宙からやってきた中性子線が酸素に当たると、酸素は壊れてトリチウムと炭素になる。

トリチウムは水素だから、酸素と結合して水になる。水分子は1個の酸素原子と2個の水素原子からできている。その2個の水素原子の一方、あるいは両方がトリチウムの場合、「トリチウム水」となる。

Tritium_water_20230831160001

はるか上空で生まれたトリチウムは、トリチウム水となり、やがて地上に降りてくる。雲になり、雨になり、川となって海に注ぐ。その過程でさまざまな生物の体を通過する。だから、あなたの飲む水の中にも、あなたの体にも、必ずトリチウムが含まれている。ごくわずかではあるけれども。

トリチウムは高層大気で自然にできるほか、人工的にも作られている。1950年代から1960年代にかけて、核保有国は大気中で核実験を行っていたので、その時期に作られた(核爆発の際に生成された)トリチウムが大量にばらまかれている。まったく余計なことをしてくれたもんである。

現在もトリチウムは作り続けられていて、その場所は原子炉だ。

原子炉というのは要するに核分裂エネルギーを使ったボイラーみたいなものなので、熱エネルギーを取り出すために水で冷却する必要がある。その水の中の水素が、中性子を捕獲してトリチウムになる。

原子炉の燃料棒を空気中にむき出しに束ねておいておくと、核燃料から放出される大量の中性子によって核分裂反応が暴走し、メルトダウン(炉心溶融)する。メルトダウンしては困るので、燃料棒と燃料棒の間に冷却用の水と、中性子を吸収する制御棒を入れる。制御棒には減速材としてホウ素(B)が使われているが、このホウ素が中性子を捕獲するとトリチウムが生じる。

また、トリチウムは水素爆弾や中性子爆弾の原料なので、核保有国では原子炉を使ってわざわざ製造しているようだ。まったく余計なことである。

福島第一原発では、1号機から3号機までがメルトダウンしてしまった。建屋が壊れ、地下水が原子炉内に残る核燃料デブリによって日々トリチウムが作られている。まったく余計なことになっちまっている。

東京電力「汚染水対策の状況」
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watermanagement/
のページの中の「汚染水とは」という見出しの下に、「対策前の状況」というわかりにくいタブがある。そのタブを開くと、トリチウムを含む汚染水が海に垂れ流しになっていたときの状況が図示されている。

トリチウムが厄介なのは、放射性物質であることだ。言い方を変えると、トリチムは放射能を持っているのである。

トリチウムは半減期12.32年で崩壊してヘリウムになる。つまり、トリチウムが100個あったとすると、約12年後、そのうち50個はトリチウムのままだが、50個はヘリウムになっている。

Beta_decay

トリチウムがヘリウムになる際に、β(ベータ)線が放出される。β線は放射性の原子から飛び出して超高速で飛んでいく電子である。トリチウムの原子核の中性子2個のうちの1個が陽子に変わり、その際に電子が飛び出すのだ(β崩壊という)。

β線は透過力が弱いので、アルミやプラスチックの板で遮蔽できるとか、皮膚を貫通できないと言われる。では、少量のトリチウムのβ崩壊は、気にするほどのものではない、と言えるのだろうか?

……ということで、次回へ続く。

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