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2023/08/31

トリチウムへの長い道(3)

昨晩から今朝にかけてスーパーブルームーンだったが、ウチのあたりは曇っていて、でっかい月の出は見られなかった。寝る前に雨戸を閉めながら見上げると、薄雲がかかり、中天に掛かる普通の満月という風情で、少々残念だった。

雲の上はいつも星空、月も土星も明るく輝いているのにねぇ。……ということで前回の続き。


自然界におけるトリチウムの生まれ故郷は、はるかな空の上である。地球には、超新星爆発などに由来する大量の放射線が降り注いでいる。宇宙からやってくる放射線を宇宙線という。地球上の生物を大量に降り注ぐ宇宙線から守っているのは、厚さ100キロメートルほどの大気だ。

NASAの宇宙気候観測衛星が160万kmの距離から撮影した月と地球の写真を見ると、いろいろなことがわかる。<br /><br><br>
見えているのは月の裏側である。<br /><br><br>
見慣れた「海」や線条がない。<br /><br><br>
月の表側(ニアサイド)と裏側(ファーサイド)では、その表情がだいぶ違う。<br /><br><br>
地球のほぼ全面に太陽の光が当たっているので、満地球である。<br /><br><br>
そこで当然、観測衛星から見た月も満月のはずだが、妙に黒っぽい。<br /><br><br>
裏側だから黒っぽいのか?というと、そういうわけではない。<br /><br><br>
じつは月の表側・裏側を問わず、月面はこの写真のように黒っぽいのだそうだ。<br /><br><br>
地球から見た満月が明るく輝いているのは、背景(つまり宇宙)が黒いからだ。<br /><br><br>
漆黒の宇宙に比べれば、月ははるかに「白い」のである。<br /><br><br>
しかし、白い雲をまとう地球に比べれば、月は「黒っぽい」のである。<br /><br><br>
そりゃあまぁ、雲と熔岩を比べたら、熔岩のほうが黒いよね。
(NASAの宇宙気候観測衛星が160万kmの距離から撮影した月と地球の写真:月には大気がないので、月面基地を作るなら宇宙線を防ぐ仕組みが必要となる。写真の月が黒っぽく見える理由については、過去の記事を参照のこと)

大気中の酸素や窒素が宇宙線を止めて、地上に降り注ぐ量を百分の一位以下にしているのである。たとえば、宇宙からやってきた中性子線が酸素に当たると、酸素は壊れてトリチウムと炭素になる。

トリチウムは水素だから、酸素と結合して水になる。水分子は1個の酸素原子と2個の水素原子からできている。その2個の水素原子の一方、あるいは両方がトリチウムの場合、「トリチウム水」となる。

Tritium_water_20230831160001

はるか上空で生まれたトリチウムは、トリチウム水となり、やがて地上に降りてくる。雲になり、雨になり、川となって海に注ぐ。その過程でさまざまな生物の体を通過する。だから、あなたの飲む水の中にも、あなたの体にも、必ずトリチウムが含まれている。ごくわずかではあるけれども。

トリチウムは高層大気で自然にできるほか、人工的にも作られている。1950年代から1960年代にかけて、核保有国は大気中で核実験を行っていたので、その時期に作られた(核爆発の際に生成された)トリチウムが大量にばらまかれている。まったく余計なことをしてくれたもんである。

現在もトリチウムは作り続けられていて、その場所は原子炉だ。

原子炉というのは要するに核分裂エネルギーを使ったボイラーみたいなものなので、熱エネルギーを取り出すために水で冷却する必要がある。その水の中の水素が、中性子を捕獲してトリチウムになる。

原子炉の燃料棒を空気中にむき出しに束ねておいておくと、核燃料から放出される大量の中性子によって核分裂反応が暴走し、メルトダウン(炉心溶融)する。メルトダウンしては困るので、燃料棒と燃料棒の間に冷却用の水と、中性子を吸収する制御棒を入れる。制御棒には減速材としてホウ素(B)が使われているが、このホウ素が中性子を捕獲するとトリチウムが生じる。

また、トリチウムは水素爆弾や中性子爆弾の原料なので、核保有国では原子炉を使ってわざわざ製造しているようだ。まったく余計なことである。

福島第一原発では、1号機から3号機までがメルトダウンしてしまった。建屋が壊れ、地下水が原子炉内に残る核燃料デブリによって日々トリチウムが作られている。まったく余計なことになっちまっている。

東京電力「汚染水対策の状況」
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watermanagement/
のページの中の「汚染水とは」という見出しの下に、「対策前の状況」というわかりにくいタブがある。そのタブを開くと、トリチウムを含む汚染水が海に垂れ流しになっていたときの状況が図示されている。

トリチウムが厄介なのは、放射性物質であることだ。言い方を変えると、トリチムは放射能を持っているのである。

トリチウムは半減期12.32年で崩壊してヘリウムになる。つまり、トリチウムが100個あったとすると、約12年後、そのうち50個はトリチウムのままだが、50個はヘリウムになっている。

Beta_decay

トリチウムがヘリウムになる際に、β(ベータ)線が放出される。β線は放射性の原子から飛び出して超高速で飛んでいく電子である。トリチウムの原子核の中性子2個のうちの1個が陽子に変わり、その際に電子が飛び出すのだ(β崩壊という)。

β線は透過力が弱いので、アルミやプラスチックの板で遮蔽できるとか、皮膚を貫通できないと言われる。では、少量のトリチウムのβ崩壊は、気にするほどのものではない、と言えるのだろうか?

……ということで、次回へ続く。

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2023/08/30

トリチウムへの長い道(2)

ウチの水道の水源は柿田川の水なので、とても旨い。だがなぜか、水道水に細かい砂粒が混じることがある。水の出が悪くなるのを防ぐため、ストレーナを清掃する必要がある。

今朝、風呂掃除の際についでに風呂場のストレーナを清掃しようと思い立った。元栓を閉じたり配管カバーを外したりストレーナをバラしたりと四苦八苦したが、大量の砂が出てきてスッキリしたので良しとしよう。

ちなみに、ウチの水道の水にも「必ず」トリチウムが混ざっている。どうしてトリチウムが混ざるのか、という話まで行けないだろうなぁ、今回は。次回説明できるかなぁ。

ということで、前回の続き。


分子模型を組み立てたり、結晶構造を説明するときには、原子は丸くて硬い玉と考えると都合がよい。

しかし原子は中身がぎっしり詰まった玉ではなく、さらに内部構造があるのだ。というか、原子というのはスカスカで、中心の原子核から離れたところに電子が動き回る軌道がある。

太陽の周りを惑星が回っているように、原子核の周りを電子が回っているという、太陽系に似た模式図がよく用いられる。この図には大きな問題があるのだが、とりあえず説明するのに便利なので使うことにする。

Atom_size

すべての原子は1個の原子核と何個かの電子で構成されている。水素は最も簡単で、1個の陽子と1個の電子で構成されている。水素の原子核イコール陽子1個なのだ。

原子核を1円玉(直径2mm)まで拡大すると、1個の原子の大きさは陸上競技場くらいになる。ただし、原子核をめぐる円形のトラックを走っている電子のサイズは人間のアスリートではなく、精子くらい(長さ数ミクロン)になる。だから「原子はスカスカ」なのである。

電子は小さいだけでなく軽い。電子の重さは陽子の重さの1840分の1だから、水素原子の重さはほぼ陽子の重さと言って良い。その陽子はプラスの電気を帯びていて、原子の中央に位置する。一方の電子はマイナスの電気を帯びている。そこで水素原子としてはプラスとマイナスが釣り合っていて、電気的に中性である(電気的に釣り合わないとイオンになる)。

原子核を構成する粒子(核子)は、陽子だけではない。中性子(ニュートロン)という核子がある。

Helium

二番めに軽い元素であるヘリウムの原子核は、陽子2個と中性子2個からできている。中性子のサイズや重さはほぼ陽子と同じだが、電気的に中性である。そこで、ヘリウムの原子核は水素の原子核の二倍のプラスの電気を帯びている。ヘリウムの原子核の周りを回る電子は2個で、ヘリウム原子としてはプラスとマイナスが釣り合って、電気的に中性となる。

中性子の重さは陽子とほぼ同じなので、ヘリウムの原子核の重さは、水素の原子核(陽子1個)の4倍である。元素には「原子番号」というナンバーが振られていて、水素が1、ヘリウムが2である。原子番号は原子核に含まれる陽子の数を表している。この原子番号が、さまざまな元素の性質の違いの元になっている。

また、原子核の中の陽子と中性子の数の合計を「質量数」という。水素の質量数は1(陽子1個)、ヘリウムの質量数は4(陽子2個+中性子2個)である。

じつはヘリウムという物質はとても安定していて、ヘリウム原子はほかの元素と反応しない。燃えたり腐食したりしないので、不活性ガスと呼ばれる。だから安全で軽い気体として、風船や飛行船、医療機器に使ったり、変な声(ヘリウムボイス)を出すのに使う。一番軽い元素は水素だが、水素は反応しやすいので水素爆発を起こしたりして剣呑なのである。

ヘリウムがなぜ安定元素なのかという話を始めると、電子軌道のK殻がどうとかと、ややこしい話になるから割愛する。元素周期表の右端の「希ガス」と呼ばれるヘリウムやネオン、キセノンなどは反応しにくい元素だということだけ覚えておくとよいだろう。ネオンはネオンサイン、キセノンはストロボライトなどの放電管に使われる。不活性ガスの中なら、金属製の電極が高温になっても劣化しないからだ。

さて、ありふれた水素原子の原子核は陽子1個だが、まれに陽子1個ではない水素ができることがある。陽子1個と中性子1個の原子核を持つ水素を「デューテリウム(重水素)」、陽子1個と中性子2個の原子核を持つ水素を「トリチウム(三重水素)」という。

Hdt

トリチウムの原子番号(陽子の数)は1なので、元素としては水素だが、質量数(陽子と中性子の数の合計)が3なので、少し厄介なところがある。

やっとトリチウムが出てきたね……。
どうやってトリチウムができるのか、そしてなぜトリチウムが厄介なのか、については次回。

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2023/08/29

トリチウムへの長い道(1)

福島第一原発事故汚染水の海洋放出が、関係者の同意がないままに始まった。農水大臣が想定していなかったという中国の反発などもあり、なんか騒がしい。毎日のように新聞やニュースフィードで「トリチウム」という文字を見る。

「処理水に含まれるトリチウムは許容量以下だから科学的に安全だ」とする推進派と「トリチウムの生物体への影響は科学的に解明されていないので安全とは言い切れない」とする反対派が互いを非科学的と罵り合うような状況になっているが、さて、このように主張する人々は、実際のところトリチウムについてどの程度理解しているのだろうか。

ちなみに儂は、核燃料デブリに触れた地下水からトリチウム以外の放射性物質を完全に除去できているか疑問なので、「処理してもなお汚染水」を海洋放出することには反対である。もちろん、トリチウムの生物体や生態系への影響についての懸念もある。

儂はトリチウムなどの放射性物質の専門家ではない。大学で少しだけ放射線生物学を学んだし(優をもらった)、中学と高校の理科の教員免許を持っているので、基礎知識はある。小中高の理科教材を作ってきた経験を活かして、専門家の視点とは違う、わかりやすい説明を試みたいと思う。


身の回りの物質はすべて、100種類ちょっとの元素からできている。水素、炭素、窒素、酸素、ヨウ素、セシウム、アルミニウム、鉄、ウラン……といった名前の元素があることは、皆さんご存知の通り。これらの元素は、理科の教科書の見返しなどに「元素の周期表」として一覧表示されている。

Periodic

この元素の一覧の中に、トリチウムはない。トリチウムは元素の名前ではないのだ。では何か?というと、トリチウムは水素の一種なのである。トリチウムは水素の中では少数派で、自然界にはごくわずかしか存在しない。では何でそこいらにある水素と区別してトリチウムと呼んでいるのかというと、その名前自体にヒントがある。

トリチウム(tritium)のトリ(tri-)はラテン語で「3」を意味する接頭辞である。トリオ(三重奏)、トリニティ(三位一体)、トリエンナーレ(三年に一度開催される美術展)など、日常的に目にし、耳にする。

ではトリチウムの何が「3」なのかというと、ありきたりの水素の三倍の重さなのである。トリチウムは日本語では「三重水素」という。

何で重さが三倍になるのか?について説明するには、水素の原子核と原子核を構成する素粒子についておさらいする必要がある。

身の回りの物体を、その性質を保ったまま細かく分割していくと、たいていの場合、分子か原子になる。たとえば、バケツ1杯の水を二つに分ける作業を続けて行くと(その回数はたぶん恒河沙という途方もなく大きな数になるけれども)、1個の水分子になる。

水分子は2個の水素原子と1個の酸素原子に分解できるが、原子まで分解すると性質が変わり、水ではなくなってしまう。水素と酸素になってしまうのだ。水のような化合物の最小単位が分子で、物質としての最小単位は原子である、と思っておけば良い。

Water_mol

ついでに言えば、元素というのは原子の種類のことで、それぞれ特有の性質を持っている。水素はすべての元素の中で一番軽く、酸素はほかの元素と化合物を作りやすいという性質を持っている。

多くの人は、原子というと小さな小さな球体のようなイメージを持っているだろう。上の図にもそんな感じで描いた。教科書などでもそのような模式図で示すことがある。

だが原子は丸くて硬い玉ではない。……ということで次回に続く。

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2023/08/25

本当の空の色

散歩中にダラダラ汗をかいて、眼鏡を外して手ぬぐいで汗を拭く。そのとき、眼鏡をしているときと空の色が違うことに気づいた。

Img_20230825_065417

上のように見えていた空の色が、眼鏡を掛けると下のような具合に見えたのだ(下の写真は PhotoshopExpress を使って加工したもの)。

Psx_20230825_095856

眼鏡を掛けると空の青色があせて見える……なんでだ? そうか、この眼鏡はデスクワーク対応の遠近両用なので、ブルーライトカット機能があるからだ!

定年退職したのでデスクワークの機会が減ったので、というか臨時で依頼がない限りディスプレイモニタに張り付く機会がないので、ブルーライトカット機能は必要ないなぁ。次に眼鏡を作るときには、ブルーライトカット機能を外して、本当の空の色が見えるようにしたほうがいいなぁ。

……と思っていたところ、次のような記事を見つけた。

CNN「ブルーライトカットのめがね、目の負担軽減の助けにならず 国際研究で結論

なんだかなぁ。眼鏡レンズメーカーが競ってブルーライトカット機能を推してたのは何だったんだろう。科学的な反論を期待したいところだが、どうだろう。

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2023/08/24

うんこ召し上がれ

終戦の日から3日後の夕方、貰い物の鯵の干物を庭で炭火で焼きながら、先に焼いた鯖の干物をつまみ、ビールを飲んだ。

暮れていく空を見上げて思う。この先それほど長く生きられなかったとしても、このまま戦争にもならず、富士山も噴火せず、東南海地震も起きなければ、まぁいい人生だったなと。

だからこそ、世界を巻き込みそうな戦争を始めたやつ、ChatGPTのほうがうまく書けそうな戦没者追悼文を書くやつ、それをTTS(Text to Speech: 自動音声読み上げソフト)よりも下手くそにスピーチするやつ、等々に腹が立ち、言いたくなるのだ。

「うんこ召し上がれ」(「クソ喰らえ」の丁寧な表現)

(排泄する若いカワウ:もちろん、この水質汚染による環境への影響は原発事故汚染水の海洋放出よりも小さい)

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2023/08/20

Colors of the Rainbow

8月10日の夕方、雨上がりの東の空の雲に西日が差していた。これは出るかもなぁと思い、空を見上げながら散歩していると、出た。

Img_20230810_181737

カメラを構えたけれど、ズームレンズの広角側の画角に収まりきらず、ボディバッグからスマートフォンを取り出したりと、アタフタした。空を見上げてアタフタする儂につられたのか、散歩道の人たちも立ち止まって虹を見上げた。

池のほうから「ダブルの虹ですよ!」と声がかかったので見ると、ボートの練習をしていた人が虹を指していた。明るい主虹の外側に、主虹よりも暗い副虹が出ていた。ボートに向かって「本当ですね!」とVサインを返した。

虹が消えた後、散歩を再開したとき、頭の中のBGMはルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」だった。

外国曲の著作権がどうなっているか調べるのが面倒なので、歌詞を掲載することは避け、和訳も一部の意訳にするが、「What a Wonderful World」には次のような一節がある。

儂は赤ん坊が泣くのを聞く
儂は彼らが育つのを見る
彼らは儂が知り得た以上のことを
学んでいくだろう
そして儂はひとり思うのだ
なんと素晴らしい世界なんだろうと

一人称を「儂」にしたのは、年を取るほど、この歌が響いてくるような気がしたからだ。

そう、子どもたちがより多くのことを学びながら育つことができる世界こそが、素晴らしい世界なのだ。年寄りが始めた戦争で死ぬ世界ではなく。

さて、例年この時期には、天候が急変して虹や幻日を見ることが多いように感じる。

今年は大雨による災害に見舞われる地域と、渇水に悩まされている地域があって、その落差が大きい。なんでこんな差が生まれるのだろうと思ったら、「温暖化」で説明できるのだそうだ。

空気中に保持できる水蒸気の最大量を「飽和水蒸気量」という(中学理科で習う)。限界まで水蒸気を含んだ空気の湿度が100%で、100%を超えると水蒸気は水滴(または氷の粒)になる。

たとえば、気温25℃の空気1立方メートルの飽和水蒸気量は23.0gである。気温25℃、湿度80%のとき、空気1立方メートルには18.4gの水蒸気が含まれている。この空気を10℃まで冷やしたとしよう。気温10℃の空気1立方メートルの飽和水蒸気量は9.4gである。そこで、
18.4 - 9.4 = 9.0
1立方メートルあたり9gの水が出てくる。冷たい飲み物を入れたコップの結露は、こうして出てきた空気中の水分である。

飽和水蒸気量は、気温が高いほど多くなる。しかも、その増加の仕方は直線的ではなく、曲線的(指数関数的)になる。Wikipediaに掲載されている飽和水蒸気量のデータを Google Spreadsheet に貼り付け、グラフを作成してみたところ次のようになった。

Chart  

この指数関数的に増加というやつが厄介なのである。ちょっとの変化で、状況が極端化するのだ。気温10℃と25℃の飽和水蒸気量の差は、先程計算した通り1平方メートルあたり9gである。気温25℃と40℃の飽和水蒸気量の差は、1平方メートルあたり28gとなる。同じ温度差(15℃)で比較しても、高温側では段違いに多くなる。

地球温暖化に伴って気温が上昇すれば、飽和水蒸気量も増すため、同じ湿度でも空気中の水蒸気の量が多くなる。水蒸気量が同じままで気温が上がれば、湿度は下がる。

地上に降る雨のもとは、海から蒸発した水分だ。海から水蒸気を供給された空気が陸上に移動し、気温が下がれば雲となり、雨になって地上を潤す。しかし、気温が下がらなければ、水分は空気中に大量に保持されたままだ。気温が上がれば相対的に湿度が下がるので、地面から水分を奪い取り、地表はカラカラになる。世界各地で山火事が多いのも、温暖化と関係があるのだ。

一方、「降れば土砂降り」になるのは、空気中に含まれている水が多いからだ。水分を含む暖気が上空の寒気に触れたり、台風や低気圧にかき回されたりすると、大量の「結露」が地上に流れ落ちる。「経験したことがないような大雨」は「経験したことがない気温」がもたらしたものなのだ。

温暖化の進行により、この地球は素晴らしい世界ではなくなってしまうのだろうか。儂ら年寄りは、地球環境保全のため多少頑張ったのだけど、頑張り方が足りなかったのだろうか。

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2023/08/18

湧き上がる雲の下のバーベンハイマー

昨日草を刈り少しスッキリした庭の、カツラの木でツクツクボウシが鳴いている。

台風7号が通り過ぎても晴れず、一昨日まで雨が降り続いた。温暖化のせいで「台風一過」もなくなってしまったのだろうかと思った。だが夏は確かに過ぎつつあるようで、クマゼミやミンミンゼミの骸を見ることも多く、蝉たちの編成が移り変わっていることを実感する。湧き上がる入道雲と同じ空に、薄く流れる雲を見るようになった。

8月は新聞を読むのもテレビを観るのも苦痛だが、その原因はもちろん「太平洋戦争」と称される戦争にある。今年の広島の平和記念式典では、湯崎英彦知事がその挨拶の中で「核抑止論者に問いたい」と真っ向から意見していた。なぜか、NHKをはじめTV各社のニュース報道では取り上げられていなかったが……。

核兵器といえば、原爆の開発を主導した科学者を描いた映画『オッペンハイマー』と、コメディー映画『バービー』の同時公開を発端とする「バーベンハイマー」騒動があった。

原爆をギャグにするアメリカ人のセンスは、核兵器の被害に対する無知から来ているのだろうなぁ、と思う。ハリウッド映画で描かれる核爆発の描写を観ると、その甘さにため息が出ることがある。最近テレビで見た中で酷かったのは、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』かなぁ。核兵器の実験施設、というか効果測定用の標的の建物内にいても、鉛で被覆された冷蔵庫に隠れれば、爆風や放射線にさらされても大丈夫だと?

まぁ、核保有国の感覚、核抑止論者の感覚はそんなものなのかなぁと思いつつ、「そんな人たち」に核兵器を持たせておくのは危険だとも思う。自分だけは生き残れると思っているのだろうか?

Barbenheimer

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2023/08/09

タイムトラベルは可能か?

前回の記事「歴史の改変は可能か」の図に誤りがあった。映画『ターミネーター2』の終盤で、ターミネーターとそのCPUをすべて溶鉱炉で融かしたのだから、歴史は変わった(未来は変更された)ことになる。

Terminator2_timeline

『ターミネーター』の時系列(①)では、未来からの干渉によってジョン・コナーが生まれ、人類とAIが闘うことになる。『ターミネーター2』の時系列(②)では、未来からの干渉によって、スカイネット(人類を滅ぼそうするAI)は生まれないことになる。

Terminator_timeline_2

「タイムトラベルは可能か」という議論において、「このような未来からの干渉の事例がないから、タイムトラベルは不可能」という考え方がある。しかしこれには、大きな弱点がある。

未来からの干渉があって時系列が変更されたとき、その渦中にいる人間は変更されたことに気づくのだろうか? たとえば、サラとジョンや、ダイソン博士の妻は1997年8月29日午前2時5分にスカイネットが自我に目覚め、核ミサイルを発射することを知っているので、1997年8月30日になったときにはホッとしたであろう。しかし、そのほかの人々にとっては、誕生日などの記念日でない限り、1997年8月29日はいつもと変わらない1日として、いつもと変わらない日常を過ごすだろう。

したがって、「未来からの干渉があったかないか知るすべはないから、タイムトラベルが不可能とは言い切れない」ということになる。

量子論の多世界解釈によれば、未来からの干渉があろうかなかろうが世界線(点粒子の時空上の軌跡)は分岐する。そのそれぞれの(無数の)世界の中のどの世界に自分がいるのかによって、自分にとっての歴史は一つしかない。ほかの世界の自分は、ほかの歴史を体験するのだろう。

ということを考えると、タイムトラベルが可能か不可能かわからないが、あるがままの歴史を受け入れるしかないよなぁと思うのである。

時間は存在しない」という理論もあり(だとしたらタイムトラベルは不可能だが)、自分たちが生きられるのは現在だけで、過去を変えることはできないとしたら、より生きやすい未来にするために、現在を生きるしかないだろう。

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2023/08/04

歴史の改変は可能か?

佐々木譲の『図書館の子』を読んだ。

道警シリーズや『地層捜査』など、佐々木譲の小説には好きな作品が多い。しかし、『図書館の子』収録の六編については、まぁ、再読することもなさそうだし、関連作品も読まなくてもよいかなぁ、と思った。

昭和初期の情景を描く文体は読みやすく、情景も浮かんでくるので、小説としての完成度は高い。どうも儂は「歴史改変」ならば普通の小説ではなくSFであることを求めてしまうので、そこがマッチしていないだけなのだろう。

物語の必要上、時系列の出来事(タイムライン)を変更するなら、変更された結果の意外性(センス・オブ・ワンダー)や、理論的背景の説明が欲しい。もちろん架空で構わないので、タイムトラベルの理論や、タイムパラドックスについての言及がないと、物足りなく感じてしまうのだ。

ということで、タイムパラドックスについて。

タイムパラドックスの典型は「親殺しのパラドックス」である。子供が過去に戻って幼い頃の親を殺すと、子供自身が生まれないはずなので、過去に戻ることも親を殺すこともできないはずだ、というパラドックスである。

例えば、映画『ターミネーター』では、近未来、人類を駆逐しようとするスカイネット(AI)が、レジスタンスのリーダーであるジョン・コナーに手を焼いている。そこでスカイネットは、ジョン・コナーを排除するため、ジョンが生まれる前の時代(現代)にターミネーター(殺人ロボット)T-800を送り、母親(サラ・コナー)を殺害しようとする。

ジョンを産む前にサラが死ねば、未来のジョンは存在しなくなり、スカイネットはレジスタンスに手を焼くこともなくなる。子供の存在を消すために親を殺すという「親殺しのパラドックス」の別バージョンである。

T-800が過去に送られたことを知ったジョンは、部下の戦士(カイル)を過去に送る。カイルはサラと協力してターミネーターを破壊する。カイルは死ぬが、その前にサラはカイルの子、後のジョンを宿している。

Terminator_timeline

……というのが映画『ターミネーター』のあらすじで、結局、スカイネットの企みは回避され、ジョンが人類の存続をかけてAIと闘うという未来は変わらない。

だがちょっと待てよ……。そもそもスカイネットがターミネーターを過去に送らなければ、サラとカイルが出会うこともなく、ジョンが生まれることもないわけだ。つまり、スカイネット自身がジョンの登場のきっかけを作ったということにならないか? そして未来のジョンは、部下のカイルが自分の父親になること、そして母と出会ったら死ぬことを知りながら過去へ送り出したのか?

……というわけで、いろいろと考えさせられるほど、時間を扱ったSFは面白くなる。

続編の『ターミネーター2』では、少年期のジョンを抹殺すべくスカイネットは新型のターミネーター(T-1000)を過去へ送る。未来のジョンは旧型のターミネーター(T-800)を人類側の味方として過去へ送って対抗する。

この場合も結局、T-800がT-1000を倒し、元のタイムライン(時間線)が維持される。つまり「歴史の改変は不可能」ということなのだろうか?

じつは『ターミネーター2』ではまた、新たな「親殺しのパラドックス」の変形版が描かれる。スカイネットのCPUは、サラを殺しに来たT-800のCPUを元に設計される。つまりスカイネットの生みの親は、未来の(ターミネーターを送り込んだ)スカイネット自身だったというわけだ。そこで少年のジョンはT-800のCPUを破壊し、スカイネットが開発されないようにする。

サラを殺しに来たT-800のCPUは溶鉱炉に投げ込まれる。そしてジョンを助けに来たT-800は、自身のCPUを破壊するために溶鉱炉に沈んでいく。なんでロボットが死ぬシーンが悲しくなるのかわからないが、ここは感動的な場面だ。

それはともかく、この時点(過去)でT-800のCPUが破壊されれば、スカイネットは生まれないはずだ。スカイネット開発者のダイソン博士も死んでしまったし。したがってスカイネットによる人類殲滅戦という未来は回避され、タイムラインは変更されたことになる。

えーと、そうなると、スカイネットが人類を皆殺しにかかるという「未来の歴史」は起こらないので、スカイネットがターミネーターを送ってきてサラとジョンを殺そうとしたという「歴史的事実」はサラとジョン(およびその関係者)の記憶の中だけのものになってしまうのか?

タイムラインの変更による歴史の改変や、そもそもタイムトラベル(タイムスリップ、タイムリープ)が可能なのかという話は、さらにいろいろ考えるネタになりそうだ。

それよりも昨今気になるのは、タイムトラベルやパラドックスとは関係なく、歴史の捏造や改変をやりたがる連中のことだ。地層や化石、進化、放射性物質による年代測定のように物理・化学・生物・地学的なエビデンスのある「歴史」と違い、人間の歴史は記録にしろ記憶にしろ不完全な部分や都合よく書き換えられた部分がある(当時の権力者にとっての都合だ)。記録はまた、つねに廃棄されたり改竄されたりしてきた。「歴史的真実」を見極めるのは容易ではない。

SF的な「歴史の改変」は面白いネタだが、実生活での「歴史の改変」は警戒すべき事柄だと思うのだ。

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