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2020/03/20

『神の目の小さな塵』のポケットコンピュータの仕様

ラリー・ニーヴンとジェリー・パーネルの共著『神の目の小さな塵』は、1974年に刊行されたSF小説である。いまから千年後、恒星間宇宙に進出し、第二次人類帝国を築いていた人類が知的な異星人にであるという、ファースト・コンタクトを主なテーマとしている。

1979年に創元推理文庫版を読んだとき、登場人物たちが使うポケット・コンピュータが非常に気になった。当時のコンピュータといえば、ホストまたはメインフレームと呼ばれるような、コンピュータルームに鎮座している巨大な機械か、さもなければ登場したばかりの、個人が趣味でプログラミングするパソコンくらいだった。とにかく本体はでかい箱で、入力はキーボード、出力はブラウン管のモニタだから、持ち歩いて使うことなど不可能だった。

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1982年にシャープのポケット・コンピュータ PC-1251 を入手して、小さなQWERTYキーをポチポチと押して、BASICでプログラムを組んだ。横長の液晶画面には大文字の英字と数字といくつかの記号を24桁で1行表示できるだけだった。PC-1251は酔っぱらって帰宅中にどこかで落としたので、1985年に後継機種PC-1261を買った。液晶画面は24桁2行表示になり、カタカナも表示できるようになった。とはいえ、ポケット・コンピュータとは(名前が同じだけで)程遠い仕様だった。

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時は下って2011年、富士通のスマートフォンF-12C を入手した(左がF-02C、右がF-06E)。電話やメールのやりとりやインターネット経由での情報検索はもちろん、スタイラスや指で入力でき、写真撮影や動画の視聴もできる。まだまだ『神の目の小さな塵』のポケット・コンピュータには及ばないが、近いものが出てきたな、と嬉しかった。

さて、現在のスマートフォンは、『神の目の小さな塵』のポケット・コンピュータを凌いでいるだろうか?

スマートフォンと同等の機能

  • コートや軍服のポケットに入るサイズに、CPUとメモリー、タッチスクリーンが搭載されている。
  • 入力はスタイラスペンまたは指。キーボードはない。
  • 手書きのメモを入力できる(お絵かき)。
  • 時計・スケジューラ(カレンダー)の機能。
  • 音声入力(口述録音)可能。
  • マルチタスク。口述しながら検索したりできる。
  • 無線データ通信機能。近距離用(屋内)だけでなく基地局との通信ができる。
  • 関数電卓的な数値計算、グラフ出力。複雑な学術的な計算処理は外部のコンピュータ(サーバ)で行い、その結果を表示できる(スマートフォンやタブレットでも、Googleの計算機を使って次のようなグラフを表示できる)。
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  • データ検索。端末のメモリー内のデータ検索のほか、サーバ内の動画なども検索できる。検索した動画はポケット・コンピュータのディスプレイだけでなく、外部のディスプレイなどに表示させることもできる。

上巻 p.95(引用部分は池央耿訳の創元推理文庫版による)

彼はポケット・コンピュータを取り出し、対話スクリーンに「チャーチ・オブ・ヒム」と書いて情報照会ボタンを押した。船内のデータバンクに接続されているポケット・コンピュータのスクリーンに求める情報が映し出された。

下巻 p.419

「記録を見られるかな? わたしの記録を出してもよいが」
「いや、わたしのを見せよう」ホーヴァートはポケット・コンピュータに数字を書き込んだ。壁のスクリーンに映像が浮かんだ。

スマートフォンを凌ぐ機能

  • 充電しているシーンがないので、ひょっとするとものすごく電池が長持ちするのではなかろうか(電卓並みとか?)。
  • 通常はスタンドアロンで動作し、必要に応じて外部接続する。接続時には、接続先や速度に応じて異なる「唸り」でユーザーに知らせる(というユーザーインターフェースなのだろう、たぶん)。

下巻 p.373

「どんな話をしたんだ?」
「はっきりとは憶えていないわ」彼女はポケット・コンピュータを取り出して情報を照会した。小さなコンピュータは微かな唸りを発した。音色が変わって、コンピュータが車の無線機を通じて宮殿のデータ・バンクと交信していることを告げた。「それに、いつのことだったかも、よく憶えていないのよ……」彼女はさらにコンピュータに情報の検索を指示した。「もっと検索が楽な情報整理の方法を考える必要があるわね」

スマートフォンに及ばないこと

  • AIの機能を使えない(『神の目の小さな塵』には人工知能やロボットが出てこない)。従って、音声コマンド入力や画像認識ができない。
  • 引用した部分では、機械学習を用いた検索用インデックスの自動生成などができていないことを示唆している。動画の検索も、呼びだし用の数字(ID?)で行っている。
  • 音声コマンド入力に関しては、スタートレックみたいにしたくない、という作者の意図があったかな?
  • ポケット・コンピュータで(ポケットベルのように)呼び出されるが、通話は無線通信機やインターカム(テレビ電話)を使っている。音声通話やビデオ通話はできないようだ。
  • カメラやマイクロフォンも、本体には装置されておらず、外付けである。

第二次人類帝国と現代社会

人類が世界平和を実現し、恒星間宇宙に進出して築いた第一次人類帝国に比べ、分離戦争で分断・疲弊した第二次人類帝国は、技術的には後退している。そのためか、遺伝子工学やロボット工学は21世紀と比べてもそれほど進歩していない。分離戦争の際にはサイボーグ技術により人体機能を強化した兵士もいたようだが、その反動なのか、科学技術だけでなく社会制度も保守的である。

何といっても皇帝が統べる「帝国」で、政治を担うのは貴族階級である。

幸いにして皇帝や貴族たちが優秀な人たちらしく、強力な軍事力を使って辺境の惑星の反乱を抑え、人類をまとめているようだ。

だが、民主主義がうまく機能しないので帝政になってしまうという未来は、なんか寂しいね。

21世紀の社会も民主主義が選挙主義みたいになっていて、うまく機能しているとは言い難い。

人類帝国では発展しなかった人工知能であるが、現実の世界で今後どのように「進化」するかは未知数である。もちろん「進化」には方向性がないので、人類にとって都合の良い方向に発展するとは限らない。

千年後の銀河系に広がっているのは、人類帝国ではなく機械帝国かもしれないし、ウイルス帝国かもしれない。

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