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2011/09/09

「放射能」をなくすには

東日本の日常生活に常に影を落とす、「放射能」。
その「放射能」をなくす方法はただ一つ、待つことだけだ。

もう30年以上も昔だが、大学生のとき、放射線生物学の最初の講義で「放射能という言葉は使うな」と教わった。

「放射能」とは、放射性物質が放射線を出す能力のことである。
だから、「放射能漏れ」ではなく「放射性物質漏れ」または「放射性物質による環境汚染」と言うほうが正しい。
人体に有害なのは「放射能」ではなく、放射性物質が放出する放射線である。

このへんが曖昧になるので、特にマスコミは「放射能」という言葉は使わないほうが良い。
このブログでは、「放射能」は本来の「放射線を出す能力」という意味に用いている。

さて、放射性物質は、放射線を放出すると放射能を失い、安定した物質になる。
問題は、環境中に漏れ出した放射性物質が放射能を失うまでに、ある程度時間がかかることだ。
放射性物質の塊から放出される放射線の量、あるいは放射線を放出する能力(放射能)が半分になるまでの時間が、半減期である。

半減期は、いわば放射性物質の平均寿命であって、半減期を過ぎれば安全、というわけではない。
放射能が千分の一になるまでの期間を計算して、8月31日の記事「半減期」に載せた。
半減期30年のセシウム137なら、放射能が千分の一になるのは300年後である。
半減期2万4千年のプルトニウム239なら、千分の一になるまで約24万年かかる。

福島第一原子力発電所から放出され、雨とともに降下した放射性物質は、福島のみならず、西は静岡まで、土壌や作物、森林や動物たちを汚染した。
何らかの除染を行わなければ、降下した放射性物質は、水の循環や食物連鎖を通じて拡散し、あるいは濃縮されつつ、長期間、環境を汚染し続ける。

故郷から離れざるを得なくなった人たちが、一刻も早く戻れるようにするには、手間のかかる除染を行わなくてはならない。
……そろそろ、子育ての終わった中高年の出番かなぁ。
もう子どもは作らないから生殖腺の放射線障害を気にしなくて良いし、20年後のガン発症確率が上がるといっても、発症後の寿命も限られているし。
瓦礫除去などの力仕事はできなくても、水や粘土(ゼオライト)を用いた除染作業ならできるだろうから。

そうした除染作業を行なっても、放射性物質がなくなるわけではない。
土壌やプールの水の中の放射性物質は粘土などに吸着されて、環境から取り除かれる。
ということは、今度はその粘土を低レベル放射性汚染物質として、環境から隔離して保管しなければならない。
……百年か、千年か、万年か……。

「放射能を早くなくすことはできないの?」とカミさんに訊かれた。
「ないね」とワシは答えた。
「放射能を食べる細菌とか居ないの?」
「細菌は放射性同位体かどうか区別せずに食べるだろうけど、食べたからといって放射線が出なくなるわけじゃないよ。放射性物質に汚染された細菌になるだけだし」
「科学技術を駆使しても、何とかならないの?」
「SF的な解決法になっちゃうね……」

SF的な解決法は四つある。

(1)放射性の汚染物質を、ステイシス・フィールドに閉じ込める。
ステイシス・フィールドは、その内部の空間の時間の経過を止める架空の技術だ。
時間を止めてしまえば、放射性物質は崩壊せず、放射線も出てこない。

ただし、ステイシス・フィールドを海岸近くに作ると、津波でフィールド発生器が全電源喪失したら、フィールドが消えて放射線が放出される。
科学技術に頼った場合、絶対に安全と言えないことは、3.11が実証済みだ。

(2)放射性の汚染物質を、時間加速フィールドに閉じ込める。
ステイシス・フィールドの逆で、内部の空間の時間の経過を早くする、これも架空の技術だ。
時間の経過を100倍にできれば、セシウム137の放射能が千分の一になるまで、3年待てば良い。

ただし、放射線の総量も100倍になるから、抜本的な解決策とは言えない。
だいたい、時間の経過を早くする方法がわからない。

(3)宇宙に持ち出し、太陽とか月の裏側とかに捨てる。
ロケットの打ち上げに失敗したら、またもや広範囲が汚染されてしまう。
宇宙エレベーターの実現を待ったほうが良いか。

最初から、原子力発電は地球生態系の中でなく、宇宙空間のみで使用を許可すれば良かったのに。
宇宙空間では、太陽放射線や宇宙線などの「自然放射線」が半端でないから、原子炉がメルトダウンしたところで大した影響はない(地球の重力圏でなければ、の話。よく考えたら、メルトしてもダウンしないし、水を使って冷却することもないか。原子炉が暴走したら、太陽に向けて飛ばしちゃえばいいし)。
もっとも、地球近傍は太陽エネルギーが豊富だから、木星以遠などの深宇宙まで行かないとコストメリットが出てこないかな?

……何だか原子力発電って、地に足の着いていない、それこそSF的な技術なのか、という気がしてきた。

(4)レーザー核融合炉で燃やしてしまう。
これは使用済み燃料などの処理方法として、現実に検討されている方法だ。
『日経サイエンス 2011年7月号』の記事「今だから考える エネルギー技術 7」参照のこと。

問題は、何十年も研究が続けられているものの、いまだにレーザー核融合で「点火」することに誰も成功していないことだ。

……まったく、厄介なことをしでかしてくれたもんだ。
「放射能」をこれ以上増やさないようにする最も良い方法は、一刻も早く原子力発電を止めることだ。
「いまのところ」環境を汚染していない使用済み核燃料が、確実に増えつつあるのだから。

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コメント

結局放射線を無くす方法は実現が難しいのか…

投稿: SARA | 2021/06/10 08:54

SARAさん

SF的でない(つまり未知の技術に頼らない)方法としては、ほかに加速器で素粒子をぶつけて、放射性元素の核種変換を行なうとかいう記事をどこかで読んだことがあります。
しかしこれも、あくまで実験室レベルのことですから、大量に作ってしまった核廃棄物を処理するには不適切でしょう。
原発の再稼働の前に、核廃棄物の総量規制を考えておかないと、後の世代に負の遺産を大量に残すことになります。

投稿: M.SHI. | 2021/06/26 16:00

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