なぜ幼虫は道を横切るのか?
先週は毎日のように、ウチの駐車場でツマグロヒョウモンの幼虫を踏みそうになってギョッとし続けていた。
ツマグロヒョウモンの食草はスミレ科の植物の葉である。駐車場のヘリにタチツボスミレが生えていて、そこにツマグロヒョウモンの幼虫が何匹もいたのだ。
しかし、そのタチツボスミレも葉の軸だけが何本も突っ立っているだけの状態になり、幼虫たちはほかのスミレを探しに旅立ったのだろう。
中には、ウチの前の通りを横切って、向かいの家の花壇を目指しているヤツもいた。
タテハチョウ類の幼虫は目立つ。
ツマグロヒョウモンも、黒いトゲトゲに赤い筋という、かなり毒々しい装いである。
ただし、この毒々しさは、虚仮威し(こけおどし)である。
毒はまったくない。
黒いトゲトゲは、触れるとゴムのような質感で、グンニャリと曲がる。
刺さって痛い、なんてことはなく、むしろ気持ちが良い。
さすがに、頬ずりしたいとは思わないが。
また、身体自体も毒を持たない。
ウマノスズクサを食べるジャコウアゲハの幼虫のように、不味いわけではない。
サンショウやヘンルウダを食べるナミアゲハの幼虫のように、臭いわけでもない。
「なんか、いかにも毒を持っていそう」という風体だけで、身を守るのである。
これまで何百万年も生き延びてきたのだから、たぶん、「毒々しいフリ」は、鳥や獣に対して有効な防御手段なのだろう。
それにしても、なんでこんなに毒々しく目立つ格好をしているのだろう?
ひょっとして、移動するから目立つようにしているのか?
逆だ。毒々しい色や恐ろしげな形をしていないと、移動中に鳥に食われてしまう。
そもそも、移動しなければならないのは、多めに卵が産みつけられるからではないか?
アゲハチョウの産卵行動を見ていると、あっちにポツリ、こっちにポツリ、と、離れたところに卵を産んでいる。
一株あたりのサンショウやヘンルウダの卵の数(=幼虫の数)は2〜3個で、幼虫が成長する間に食い尽くされることは、まず、ない。
ところが、ツマグロヒョウモンの幼虫は、スミレやパンジーが裸になってしまうぐらいになる。
アゲハチョウのように、あくまで安全係数を高くとって、食糧危機が起きないような戦略と、ツマグロヒョウモンのように、食糧危機に陥ったら移動すればいいじゃん、という戦略。
それらの戦略と、「臭いで防御」「虚仮威しで威嚇」という生態とは、深く結びついている。
ツマグロヒョウモンの幼虫が移動せざるを得ないことと、目立つ姿、そのどちらがキッカケになったのだろうか。
さて、ざっと6〜7匹いた我が家のツマグロヒョウモンの幼虫は、すべてどこかへ消えた。
大きさがまちまちだったが、みな終齢幼虫だったのだろうか、育ち盛りのヤツはいなかったのだろうか、と気になっていた。
終齢幼虫なら、どこかで蛹(さなぎ)になっているだろう……。
……と思って今朝、外壁の屋外コンセントの下に黒い蛹がぶら下がっているのを発見。
黒くてピカピカのトゲのある垂蛹(すいよう)は、間違いなくツマグロヒョウモンだ。
触ると、激しく震えた。
どうやら、旅立った幼虫のうちの少なくとも1匹は、冬越しの準備ができたようである。
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