2005年10月14日の朝日新聞(asahi.com)の記事
不思議な微生物、藻食べて植物に大変身 名は「ハテナ」
などで、藻類を食べてその藻類と共生し、光合成を行う鞭毛虫(べんもうちゅう)類発見のニュースが報じられた。
鞭毛虫というのは、1本ないし数本の長い毛(鞭毛)をもち、それを鞭(むち)のようにしなわせて水中を進む単細胞生物だ。
中学や高校の教科書に載っている、「ミドリムシ」とか「ボルボックス」といった単細胞生物を思い浮かべてもらえばよいだろう。
そして、その単細胞生物は、「ハテナ」と名づけられたという。
じつは、藻類と共生する単細胞生物というのは、ハテナだけではない。
その辺の田んぼや池の水の中にも、「ミドリゾウリムシ」という、藻類を何個も取り込んで光合成している単細胞生物が居る。
ハテナの発見が画期的なのは、二つに分裂して増殖するとき、一方の細胞には藻類が残り、もう一方の細胞には藻類が無くなってしまうことだ。
藻類がないほうの細胞は、ふたたび藻類を取り込んで、緑色になるという。
つまり、ハテナとその体内の藻類は、完全な共生状態にあるというのではなく、共生への過程にあるのだろう。
緑色植物は、動物細胞が取り込んだ藻類と共生を始めたことが起源だという仮説がある(リン・マーギュリスの「共生説」)。
ハテナはその仮説を強力に支持する実例なのだ。
このようにして動物細胞に取り込まれた藻類が、緑色植物の葉緑体に変化したのだろう。
さて、共生説で示されているのは、植物のほうが動物よりも「進化している」という事実だ。
ときどき、地球上の生命体全体で考えると、動物という生物は植物や菌類・細菌類に比べて「能無し」だなぁ、と思うことがある。
植物や菌類・細菌類のやっていること(光合成とか窒素固定とか)は動物にはできないが、動物のやっていること(高分子の有機物を低分子の有機物に分解すること)は、植物や菌類・細菌類もやっているからね。
さてさて、中学・高校の理科教育が悪いのかもしれないが、植物と動物の境界線がかように「あいまい」であることは、あまり知られていないようだ。
だが、ミドリムシを見れば判るとおり、植物と動物の境界線は、「ない」。
単に、系統樹の先っぽのほう、例えばサクラとイヌを比べると、まったく異なっているというだけだ。
つまり時間をかけて異なるものに進化して行ったものも居る、というだけのことなのである。
それにしても、今回の報道の中には、誤った進化観が露呈されたものもあった。
仮に「ハテナ」と命名されたこの微生物は、植物への進化過程にあり、数千万年後には完全な藻類になる見込みだという。
[時事通信社 2005/10/14 03:10]
おーい。
ハテナが数千万年後に藻類になるなんて、誰が言った?
おそらく、地球の生物進化の歴史の中で、ハテナのような生物から植物が誕生するまで、数千万年かかったのだろうね、という話を研究者がしていたのではないか?
数千万年後、ハテナは今と同じ暮らしをしているかも知れないし、やっぱり藻類とは縁を切って、動物として生きているかも知れない。
生物の進化とは、「結果」がすべてであり、同じことが再び起こるとは「絶対に」言えないのだ。