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2005/02/19

ウイルスは恐怖の対象か

コンピュータウイルスではなく、本物のウイルスの話。
日経サイエンス2005年3月号には、ウイルスに関する記事が複数あった。
一つは特集「インフルエンザの脅威」、そして「ウイルスは生きているのか」……いやはや、考えさせられること、ビックリさせられることがいろいろあった。
ここには、それらのうち、いくつかについてメモ代わりに記す。

1918年から1919年のインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)の大流行(パンデミック)では、世界中で4000万人もの死者が出たという。
しかもそのヒトインフルエンザウイルスでさえ、致死率が数%なので、「低病原性」なのだ。
「高病原性」の鳥インフルエンザの場合は、致死率は100%近い。
そして、1997年以降、鳥からヒトに感染したH5N1ウイルスの致死率は70%を超えている……。
鳥インフルエンザウイルスが大流行したら、いったいどうなってしまうのだろう。

rna_virus高校で習う程度の、ウイルスの概念的な構造を【科学的逍遙】に載せたことがある。ここにも載せておこう。
現実のインフルエンザウイルスには、この図にはない構造がある。
表面からウニのトゲかクリのイガのように突き出した表面タンパク質だ。
そのうち、細胞への侵入に使われる赤血球凝集素(HA)と、宿主細胞へのウイルスの再結合を防ぐ酵素ノイラミニダーゼ(NA)の種類によって、宿主(感染対象となる生物)が異なる。
HAとNAの組み合わせや、タンパク質分子のアミノ酸配列が変化すると、ウイルスはそれまでとは異なる宿主に感染することができるようになる。
このようなウイルスの変化、すなわち進化は、どうやら簡単に起こるらしい。
遺伝子の突然変異以外に、2種類のウイルスが同一の細胞に感染した場合に、細胞内でウイルスの遺伝子が組み合わさることもあるのだ(22ページの図)。
……まるで有性生殖だ。
従来、ヒトには感染しないと言われていた鳥インフルエンザも、鳥のウイルスとヒトのウイルスに同時に感染したブタの細胞内で「ハイブリッドウイルス」となり、ヒトに感染するようになったのではないか、という仮説が提示されている(34ページ)。

さて、鳥ウイルスはカモなどの体内にいるときには、増殖はするが病原性を示さない。
実際、ほとんどのウイルスは感染し、増殖しても病原性はない。
よく考えれば、宿主が死んでしまったのでは寄生者も困るので、「優れた寄生者」は宿主には害をおよぼさないものなのだろう(優れた寄生と共生との違いはなんだろうね?)。
そして、ウイルスの遺伝子が宿主のゲノム(宿主の遺伝子の総体)に混ざってしまえば、ウイルスは宿主の生殖細胞を通じて「垂直に」伝播することもできる(ヘイ、キミの遺伝子のうち、何%がウイルス由来かなぁ?)。
宿主のゲノムからウイルスの形に戻れば、他の個体に感染することで「水平に」伝播することもできる。
それだけでなく、他の種へと伝播することすらできる(鳥インフルエンザウイルスのように)。
その際に、ウイルスが宿主の遺伝子を持ち出して、他の種へと持ち込むことすらあり得るとすると、ウイルスが他の生物の進化にも影響をおよぼす、ということになる(51ページ)。
放射線による損傷やDNAのコピーのエラーのような頻度の低い突然変異よりも、ウイルスの感染による変化のほうが、生物を進化させる原動力としては大きいのかもしれない。
……な~んていう話は以前にどこかで聞いたなぁ、と思ったら、グレッグ・ベアのSF『ダーウィンの使者』ではないか。

さらに面白かったのは、ウイルスが核の祖先かもしれない、という仮説だ(52ページのコラム)。
緑色植物の細胞内の葉緑体は、細胞内に取り込まれ、共生した光合成細菌ではないか、という仮説がある。
これによって、葉緑体が独自の遺伝子を持つ理由が説明できる。
同様に、酸素呼吸をするほぼすべての動植物や菌類の細胞内のミトコンドリアについても、細胞内に共生した好気性細菌が起源ではないか考えられている(ミトコンドリアも独自のDNAを持つ)。
さて、葉緑体やミトコンドリア(のもとになった細菌)が入り込んだ細胞だが、それも細菌類、つまりDNAが核という形にまとまっていない原核生物だったはずだ。
で、われわれ真核生物の細胞が持つ核という、DNAがタンパク質と脂質二重膜に覆われた構造はどうやってできたのか、という話に、ウイルスが登場するのだ。
原核生物の細胞に病原性のないウイルスが入り込み、細胞質に散らばる宿主のDNAをウイルス自身のDNAといっしょに膜の中に巻き込んで、細胞核として居座ったのではないか。
う~む。ヒトの細胞核がいきなりウイルスとして目覚めて、細胞から出て行くことに決めたら、ワシらの体はいったいどうなってしまうのだろう?
『ミトコンドリア・イブ』をしのぐホラーSFのテーマに……ならないかなぁ?

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